アブラハムの物語(3/7):偶像破壊者
布教に、物理的な行動が伴わなければならない時が来ました。アブラハムは偶像崇拝に対する大胆かつ決定的な一打を計画していました。クルアーンによる記述は、アブラハムが父個人の偶像を破壊したとするユダヤ・キリスト教の伝承1とは幾分ことなるものです。クルアーンでは、アブラハムが人々によって祭壇に祀られていた偶像の数々を破壊したとしています。アブラハムは、偶像に対するこの計画を示唆していました。
“神に誓って、私はあなたがたが背を向けて去った後に、あなたがたの偶像に一つの策をめぐらそう。”(クルアーン21:57)
宗教的祝祭の時期が来ると、人々は町を離れました。アブラハムは祝祭に招待されていましたが、彼はこのように言い逃れました。
“彼は星々を一瞥し、こう言った:「ああ、私は気分が優れません!」”
人々が町を去ると、好機は訪れました。神殿には誰もいなかったため、アブラハムはそこに入り、金メッキが施された木製の偶像の数々に近づきました。それらの正面にはお供え物が置かれていました。アブラハムはそれらに対する不信仰から、このように揶揄しました。
“彼(アブラハム)は彼らの神々に向かって言った:「あなたがたはそれらを食べないのか?あなたがたは物も言えないほど苦しんでいるのか?」”
結局、自らの彫像を神々として崇拝するほど、人々を惑わせたものは何だったのでしょうか?
“そして彼はそれらを右手で叩き壊した。”
クルアーンはこう述べています。
“彼はそれらの内の最高位のものを除き、すべてを粉々にした。”
神 殿に僧侶たちが戻ると、偶像が破壊されていることに気付き、慌てふためきました。こんなことをしたのは誰かと考え巡らせていると、ある者がアブラハムの名 を挙げ、彼が以前、それらを批判していたことに言及しました。そして彼らがアブラハムを呼び出した時、アブラハムは彼らの愚かさを公然とさらけ出したので す。
“彼は言った:「あなたがたとあなたがたの作る物は神によって創造されたというのに、それでも自ら彫った物を崇拝するというのですか。」”
彼らの怒りの感情は高まるばかりでした。説教されることを拒否し、彼らは単刀直入にこう切り出しました。
“アブラハムよ、我々の神々にこのようなことをしたのは、お前なのか?」
アブラハムが、最高位の偶像を破壊せずに残しておいたのには、理由がありました。
“彼は言った:「それらの中のこの最高位のもの(偶像)がしたのです。それらが口が利けるものなら、聞いてみなさい。」”
アブラハムがこのような挑戦をしたとき、彼らは混乱に陥りました。彼らは偶像を守れなかったことについてお互いを責め合った後、こう言いました。
“これらが口を聞かないことを、お前はよく知っていたようだ。”
そしてアブラハムは、この問題の核心をつきました。
“彼は言った:「それなのにあなたがたは、神以外のものを崇拝するのですか? あなたがたを、少しも益せず、また損わないものを。ああ情けない。あなたがたも、あなたがたが神を差し置いて崇拝するものたちも。あなたがたは、なお悟らないのですか。」”
告 発者たちは、逆に告発される側となったのです。彼らは論理の矛盾を指摘されると、アブラハムに何の反論も出来ませんでした。アブラハムの論理には反論の余 地がなく、彼らの反応は憎悪と憤激に基づいたものだけでした。彼らはとうとう、アブラハムを焼き殺すという決定を下したのです。
“やつのための建物を建て、灼熱の炎のなかにやつを放り投げよ。”
町 の人々は材木を集め、彼らが誰一人見たこともないような巨大な炎を焚き上げました。若いアブラハムは、万有の主が彼のために用意された運命を受け入れまし た。彼は信仰を失うどころか、その試練は彼をより強くしました。アブラハムはその若さでも、焼身刑に怯んだりはしませんでした。そこに入れられる前、彼は 最後の言葉としてこう言いました。
“私には神だけで十分であり、かれこそは諸事の最善の執行者であられる。”(サヒーフ・ブハーリー)
ここからも、アブラハムが試練に立ち向かい、それを乗り越えた例を見て取ることが出来ます。ここで彼が試されたのは真の神への信仰であり、彼は神の呼びかけに応え、自らの存在を捧げる用意が出来ていることを証明したのです。彼の信仰は、彼の行為からその証拠を見て取ることが出来ます。
神 は、これをもってアブラハムの天命と望まれたわけではありませんでした。彼には大いなる使命が待ち受けていたのです。彼は、私たちの知る偉大な預言者たち の父となることが、運命付けられていました。神はアブラハム、そして人々にとってのしるしとして、彼を救出したのです。
“われら(神)は命じた:「火よ、冷たくなれ。そしてアブラハムの平安となれ。」彼らは彼に対し策動しようとしたが、われらは彼らを酷い失敗者とした。”
こうしてアブラハムは無事に炎から逃れました。彼らは神々の復讐を企てたにも関わらず、彼らとその偶像の数々は、屈辱的な最後を迎えたのです。
Footnotes:1 The Talmud: Selections, H. Polano. (https://www.sacred-texts.com/jud/pol/index.htm)